学生時代の友人に、久しぶりに飲まないかと誘われた。新宿の指定された店に行ってみると確かにそこには懐かしい顔が揃ってはいたのだが、それと同じ数だけ初めて顔を合わせる女の子たちがいた。一応お前に彼女はいないことになっているから、と言われて、ああこれはいわゆるそういう場なのか、と初めて気がついた。

 あまりない機会なら楽しむべきだろうと思って、僕に出来る限り積極的に話してみた。彼女たちは大変明晰なひとたちだった(幹事の通った大学院と職業の関係でそういう女性が集まったのだった)。僕の知らないことをたくさん知っていて、僕よりも頭がよかった。僕がしている仕事の話を聞きながら、へえ、そうなんだ、すごいね、などと相槌を打ってくれていたが、スタートラインが同じなら彼女たちの方が僕よりずっとうまくやるだろうと思えるそつなさがあった。

 そろそろ明日に響くから帰ろうかという頃になって、そこそこ気の合う感触のあった子が、いろいろ引かないで話してもらうの久しぶりだった、と言ってきた。引くって何を? とたずねると、だって趣味がちょっとずれてるって言われるから、私変人だって言われるの、と答えた。

 帰りの電車の中で、アンソニー・ドーアシェル・コレクター』を読んで、ひどくうちひしがれた気分になった。ハンターの妻。濃密過ぎて辛い。どこから連想したのかわからないが、去年白馬岳に登った時に、気がついたら一緒に登っていた仲間がみないなくなっていた時のことを思い出した。

 部屋では彼女が暖房もつけずに毛布にくるまって眠っていた。つけっぱなしになっていたテレビでは僕の知らない映画が続いていて、精神科医の寝椅子に女が寝ているところだった。

 

シェル・コレクター (新潮クレスト・ブックス)

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